morの解析ブログ

解析疫学、リスクにまつわるメモや計算

「推定」のまわりをさぐる.教科書では「解析はMHにより行う、因子が多ければ重回帰を用いる」という風で詳しい例は少ない.独自(のつもり)な思いつきで具体に試行.
 数理を用いるべきアセスメントにも切り込む.

相互汚染はいったい如何程の菌を残すか._4

■ 相互汚染
 国内の評価書では、ブツを処理から販売、家庭で扱う上で課題として挙げられている.ここでは陰性鶏が処理過程で汚染されることが、摂食されて起こる危険を考えるとき本当に中心的な問題かという視点で調べる.
 当ブログでは陽性率によるシミュレーションではなく、FAOのRAなどをにらみながら国内の定量データと工程も因子として試算している.
・相互汚染に関する研究
 農水データ*、FAO RA、EFSAデータが参考になる.
  *平成25年6月28日農林水産省食品安全セミナー(微生物編)の公開資料.
 ここでは前2者を中心とする.
 農水データは、鳥が腸内容に持つcampyと処理後とたい、解体後胸、ささみの各定量を記している.結果データが示すのは、主に盲腸に菌を持つと、とたいほか製品に相応の菌が付着して残存する、といったところか.
 相互汚染の結果、ブツに残るhazardについて菌数と確率にわけて考える.この記事では-まず、菌数について記す.
■■ 菌数
● 相互汚染(資料では、交差汚染といっている)による菌数の比
 FAOWHO RAでは、保菌鶏群からの肉の汚染菌数は、その処理後の陰性鶏群からの肉の汚染菌数と比べ自然対数菌数で -2 の差(菌数の比として100分の1程度)がある.
 FAO RAは菌数2乗台でのリスク低減が最も大きいことを示す図も掲載している.
 農水データでは、保菌鶏群処理後の陰性鶏群肉への汚染はやはり、保菌鶏群肉より低めになっていて 0.6-1.8オーダー下にとどまる.このことから「交叉汚染された陰性鶏群由来鶏肉によるカンピロバクター食中毒のリスクは陽性鶏群由来鶏肉よりも低いと考えられる 」としている.
 ただ、農水データは、100gあたり10000レベルを最頻とした、相当の濃度といえる.これは捨て置けないが、次のような解決を示す.
● 市販品の菌数が処理後の菌数より少ないわけ
 国内流通する国産品の調査では、ピーク10の2乗から3乗個/100gであり、農水データよりはるかに低い.その理由として後者が「食鳥処理時に採取した」検体であることが考えられる.この点、H14食品製造の高度衛生管理に関する研究(厚労省データベース)にも同様の考察がみられる.campyでは、処理後に比較的菌が多くても(急冷により検出されなくなる場合もあるが)、空気曝露により流通過程で減る(増えることはない)との考え方である.
 ヒトが直面する危険にかかわるものは消費段階での製品の菌数である.解体直後のデータはあくまでプロセスの1時点における菌数を示すのである.
  http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=200100895A
 さて、主題に戻ると、二次汚染ないし、相互汚染を「受けた側」の菌数比はぐっと”下がる”ことがわかった.
○相互汚染後の菌数
 市販ベースの菌数分布は、相互汚染の結果をも含む結果として現れる、と捉える.詳しくは、市販肉で陽性率0.856、10の2乗から3乗/100gを中心とした分布を示し、危険なものの割合は0.642であった(評価書 表19より計算)が、その主な汚染は汚染鶏の肉であると考えてよいだろうから、相互汚染のものを汚染鶏からのものの2オーダー下として、10の0から1乗程度/100gとなる.これは、相互汚染の影響は、結局市販レベルでは大方検出限界以下に埋もれ、どうにも問題にしようがないことを示している.(しかし、定性「陽性率」は依然、”高い”)
 なお、全体の市販品の菌数レベルは、菌数に対するリスクの傾きが大きく(FAOの図から推測:前出)、この段階までに菌数が下がる因子は、酸素への曝露や、急冷と考えられるが、後者は解釈を難しくする.余談ながら、真空包装は酸素ほかストレスを菌からまもってしまう.


■ 農水データで詳述されない次の点は気になる.
・菌の所在
 ”盲腸に持つから肉につく”こともあろうが、盲腸でなく体表(脚、羽、皮膚?)から菌が肉に移行することも想定すべきではないか.相互汚染は、より少ない菌の存在が問題となるから.
・処理システム
 機械的条件、工程条件(数値)が明らかにされるべきだ.湯漬は温度により菌の残存への影響がすでに知られる例の1つである.酸性塩素水を工程2か所で作用させる処理が特殊であるから、このようなプロセスやその数的条件がhazardの存否との関係について検討して併記すべきではないか.
・実験の場が1つの工場であるため、強く絡んでいるファクターがどれか、どういう条件下が影響したかがわからない.わからないと因子検討の側面からアプローチできない.


 などがあるが、工程について記す機会もあろうからいったんおいておく.

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