morの解析ブログ

解析疫学、リスクにまつわるメモや計算

「推定」のまわりをさぐる.教科書では「解析はMHにより行う、因子が多ければ重回帰を用いる」という風で詳しい例は少ない.独自(のつもり)な思いつきで具体に試行.
 数理を用いるべきアセスメントにも切り込む.

汚染率と危険との間にある”何か.”_1 

■ 微生物学的危害の曝露評価について、手計算で試行する.
■ きっかけ
 リスクアセスメントRAは、限られたデータから結論が導き出される.RAの要素について国際的申し合わせがある.とはいえ、検討されている内容が国により異なってみえる.たとえば、campyに関するFAOWHOやEU内のRAは処理工程についての認識がある.日本のものは、ファクターが少ない.(すこしあるのは、海外の借用).また、campyでは、発症菌数は、重量当たりの検出下限よりはるかに大なのだが、モデルに定性的数値が多く使われており(定量データが少ないのは致し方ないとして)、”検出状況は、陽性である”との一点張りであるが、結論が”府に落”ちてくれない.説明にも定性的な数値(率)が多い.
 モデル:ソフトも違い、表現も違う.対策・具体的な提案まで書かれている.よくわからないまま、対策までも出てきてしまう・・ここは体験的に調べるしかないと考えた.
■ この記事では、_1として、例によって公表されたデータを使い、「定性」的にみた陽性率と「定量」による分布を対比してRA流の手順の狭間にありそうな、”何かを”探す.簡単な計算で迫りたい.
■ 使う資料
・微生物学的な評価:食品と、これに関連する微生物について公表されている.
 主に 
 微生物・ウイルス評価書 鶏肉中のカンピロバクター ・ジェジュニ/コリ
   2009年6月]食品安全委員会 ,
 カンピロバクターによる生鶏肉 の食中毒の定量的リスク アセスメントモデルの開発  
   2008.07.07微生物・ウイルス専門調査会第3回WG
・RAにあたって、定性データ(だけ)で十分ということはないらしく、この国のRAでもさらに定量的なデータが必要と結ばれている.既得のデータは有限で、限定されるからモンテカルロシミュレーションするものと理解している.
■ 定量的なデータとそれを定性的なみかたで陽性率として、簡単な計算で比較”体験”し、ブツのhazardがどの程度になるかを中心にRA的にする.
 処理後は、湯水に浸かることもなく、流通から喫食までcampyは増菌しないとみなせ、(加熱調理を除けば)激減する要素もないので、販売段階でのブツの菌数分布が暴露時の危険のポイントとなるとする.これと定性データである陽性率との関連を調べれば、主な目的にかなうだろう.
■ 具体的 データと計算
* ヒストグラム
 まず、流通段階のモノの菌数分布をながめる.評価書に100gあたりのMPN定量が記されている.ヒストグラムを描けば自然な裾の広い山型とわかる.
* 定性
 同書表19の定量分布から、1つ取り出してみる.下限の菌数のものと菌数確定できたレベル以上のものをそれぞれ陰性、陽性とし、「定性」検査データとして扱う.この度数は50検体中 2検体(4%)であるから、
  残り 48/50 :  96%は陽性・・・《1》
 となる.
* 定量から発症菌数の割合
 定量的評価のための簡単に2次元展開する.
 定量での下限は、10または15(cfu/100g またはMPN /100g  
           http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/12/dl/s1205-5d.pdf
 から、
  gあたり定量下限 0.1 , 0.15 ・・・・《a》
 となる. 
・発症菌量
 ヒトのcampy発症菌数は800cfuとされている.この記事では、これ以上の菌を喫食した場合、発症の危険があるものとし、それ未満では、なし、と割り切る(1個でも感染の可能性があるとするシミュレーションがあるが、危険があるなしをその境界値から見れば、考え方がシンプルになるため、あえてそうする.つまり発症菌量を外挿しない).
 すると《a》の値;定量下限周辺の濃度のものは、ありえないほど喫食しないと発症菌量に達しないのがあきらかで、リスクが無視できる.
 発症の危険の有無は、喫食量と菌数濃度の両方に依存する.簡単のため喫食菌量を濃度と重量の2つの次元にひろげ、危険なモノの割合を求めていく.




 
 喫食量範囲を10g-100g;おおむね実際の1回喫食量を反映するものとし、重量ごとに、菌数濃度に応じたセルをつくる.最大値または最小~最大菌数を表している.
 1回喫食する場合、"〈15”で示される 陰性はもちろん、campyが検出されたもののうち~99MPN までの検体は、喫食量にかかわらず発症菌量に至らない.100MPNを超える域で、発症菌量に達するグループが出、1000-MPNのもの(5,500<を含む)は、発症菌量に達するグループでほぼ占められる.


 この喫食量範囲では、発症菌量を超える検体数/割合は、
   17.2検体/50検体  34.3%  ・・・ 《2》
となる.
 ここで、菌量濃度の幅に応じでセルに100-999のように不定な菌量を示すが、これを単純に100と999の2つの区切りを割り当て、期待検体数を算出.
 図は、濃度による検体数分布であり、発症菌量に達するものをオレンジで示し、全体の陽性の割合と、陽性のうち発症菌量を超えるものを対比している.



○ 定性と定量による、発症菌量到達検体
 定性による《1》は96%が陽性となり、いかにもひどい率となっているが、定量による発症菌量を超えるもの《2》は34.3%にとどまる.
 ◆ ”陽性率は96%であっても、喫食による危険の確率は34%” ◆ 
 なのである.
 ちなみに、上では発症菌量を800としたが、発症菌数を100個とした場合、危険を帯びた検体は増すものの、40.9%にとどまる.
■ 国内RAのごく一部の定量データから菌数による分布を発症菌量で区分した.同一データの陽性率と比較すると、”リスクの程度を示す発症菌量をもつものの割合は、陽性率と比例関係にない”ことを示した.このことは、曝露評価についてさらに試行が必要と思わせる.
 
■ 用語
リスク=食品中にハザード(危害要因)が存在する結果として生じる健康への悪影響の起こる可能性とその程度(健康への悪影響が発生する確率と影響の程度)

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