morの解析ブログ

解析疫学、リスクにまつわるメモや計算

「推定」のまわりをさぐる.教科書では「解析はMHにより行う、因子が多ければ重回帰を用いる」という風で詳しい例は少ない.独自(のつもり)な思いつきで具体に試行.
 数理を用いるべきアセスメントにも切り込む.

Campyの汚染残存に影響する因子・数値範囲_RA8改

■ 国内で、工程の影響を調べ公表されたデータが少ない.campyについて処理工程での対策が必要とされる(campy評価書).
■ 高度化研究(公開pdf)をみると、僅かに工程について数値が記されている.ファイル名: 200100895A0006.
 まず湯漬水温度は60℃弱で、観察中、ほぼ一定.
 予チラーについて、測定記載されているのは水温のみ、本チラーについて、水温、「塩素」がある.(透視度、換水量というものも)
 カットされた肉を検査に供している.
 資料の考察では、肉のcampy菌数(重量当たりMPN)が稼働時間とリンクしていることをもって、チラー水中の汚染の蓄積に菌による肉汚染の原因を求めている.しかし、”透視度”データにそれを裏付けるような違いがないばかりか、極めて清澄.またチラー水も菌数データは示されていない(採取されていない).
 さらに残念なことに、評価書で関連する記述を探せば、チラー水にcampyはNDだったという結果が示されている:「表14 食鳥処理・食肉処理工程におけるC. jejuni 汚染状況 」.また、検出される場合はあっても、(食品安全に関する有害微生物の実態調査の結果集(平成19-23年度)率は数ないし数十%、菌数は記載なし)単独で肉を百-千個/100gにまで汚染するとはとても思えない.  
 高度化・・研究のデータから、水による肉の汚染をいうのは、かなりの無理がある.
 なお、「塩素」についてどうやら高濃度な処理をしているが、これが効果を示していないことが明らか.(常温~冷却水程度の水温では塩素の効果に違いがなかったとするデータが公表されている).また、塩素濃度にもいろいろあり、ずべてが菌に効果があるとは限らない.元々campyに塩素は無効論が多い.
 また、検体として同一ファームの群におおむね10検体割り当てられており、さらに検体のあちこちを切り取って培養している.よってこの研究の結論である、菌の検出状況の違いが、”ばらつき”によるというのは否定的である.検出状況をばらつきにのみ求めるためには、他の影響する因子の大きさをできる限り解析検討して調整する必要があろう.

 具体的な数値を見ていく.サンプリングのタイミングは1回目は9時で、すでに6000羽の処理後であり、サンプリング2回目は11:30、1300羽処理後である.稼働時間の経過による汚染について考えれば、どちらも相当羽数処理後であることに変わりがなく、汚染はプラトーになっているのではないか(器具の汚染は速やかに進む).したがって、これを肉汚染の違いの理由にしがたい.
■ 2回のサンプリング時の予チラー水温は、1回目が5.9℃、2回目;肉の汚染が多かった回:は4.1℃、本チラーでは0-0.2℃で一貫して低温となっている.これから、水温の違いとの関連が考えられる.
■ campyが低温処理されたとき、VBNCになるとの報告がすでにある.それによれば、4℃を下回る温度への暴露がVBNCの要件である(http://ir.obihiro.ac.jp/dspace/bitstream/10322/2860/1/682.pdf)が、この高度化研究にみる工程ではおそらく数ないし10分程度の時間、(予)チラーにさらされるだろうが、もし〈4℃なら、そこですでにVBNCとなろう.この研究ではそうでなく、むしろ徐々に冷却され、本チラーでかなりの低温になっておりしかも、一定していた.これが、VBNCを免れ検出可能な状態で生残したcampyがそのままに全般のcampy高率検出に関わったとみる.
■ つまりこの調査から、
 ・急冷された場合にcampyが検出されがたくなることがあるが
 ・予チラーが、徐々に冷却するように作用する場合、campyの検出されがたさが回避される
 ・本チラー低温は(前工程で急冷されない限りは)、campyを残存させる
 ということである.


 菌数の落ち方という考えをとると、1回目でよく落ちているが、さほどの低温ではない.全般に予チラー水温は、低めでないほうが良いと考えられる.
 チラー水の汚染、稼働時間が肉の原因とする考察は、見かけに惑わされたものと考える.


■ コントロールに関連する数値範囲
 予チラーの水温のみが、変動するパラメータであったから、これを変量(クラス)としてcampy検出率を説明した.
 予チラー4℃あたりをkeypointとしてみておく.4℃は、VBNC実験の結果からこれが起こらないぎりぎり温度で、これを超えるとcampyコントロールに有利.
 しかし本チラー0℃あたりは、場合によって極めてcampyのコントロールに不利ともいえる.
 * いままでのデータ解釈を変える必要がある.
■ 湯漬け・脱羽
  ”湯漬け水”は、高温だととたいに病原微生物が付着しやすくなると巷書かれるが、付着しやすいのは、どの工程の肉、どの畜産物でも同じである.サルモネラ菌そのものは60℃〈で皆無となる.さらには、湯に漬かった表面ならば、羽・毛の栄養型菌は、激減しているはずである.
 脱羽で汚染されることも知られ、ここでの微生物対策が巷書かれるが、対策の実例ないし実験例が少ない.そればかりか、冷却槽での多種の薬剤の使用が書かれ、いずれも著効のないことはあきらか.


* この記事は、以下のブログ記事廃止によって、再構成したもの.




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